「……もしかして」
ぐったりとして暴れなさそうである事を確認し、橙の足の付け根に手をのばす。
「(……湿ってる)」
そこに少し強く触れると橙の耳がぴくりと揺れる。触れる。揺れる。触れる。撥ねる。
「な、何を……」
「くすぐったがる所は性感帯って本当だったのね」
散々ワキやら何やらをくすぐったせいで息が荒いのだと思っていたが、
どうやら息の荒さの理由はそれだけではなかったようだ。
暫く思案していると、くぐもった声が聞こえる。
思案の最中も橙の肌の感触が良く、そこを撫でていたせいだろうか。
「は……ん……」
そんな姿を呆と見ていると、なんだかクラクラするような、
自分が自分でないような感覚に襲われる。
「な、何したのよ……さっきから……ん……上手く身体に力が……入らないし」
対する咲夜の表情は薄い笑み。
「へ……変な妖術とか……使って……ないでしょうね……ふぁ……」
無言で撫で続ける。
「や……あ……ん!」
突然、咲夜の顔が橙を覆い、くちびるが重ねられる。
目を瞑っている咲夜に対し、驚きで目を見開く橙。そして、驚きで緩んだ口に、
「ん……ふ……ふぁ……」
咲夜の舌が割り込んだ。舌が絡められ、粘着質の音がする。
その間も手は休めず、ワキや腹、ウチモモを優しく愛撫。
その名の通り、愛しいものを撫でるように。
ひとしきり橙のざらつく舌の感触を愉むと、咲夜は顔を上げる。
離れた2人のくちびるが、1つの線で結ばれていた。
「うー、頭がくらくらする……」
「何故か分かる?」
「当然、口を塞がれて……いたからじゃない」
「本当にそれだけだと思う?」
手を止め、ふふっ、と笑う。その表情は妖艶と言う言葉が似合っていた。
橙は背筋にゾクリとするものを感じたが、それは恐怖から来るものでは無く、
むしろ、好奇心のそそられるものであった。
「……よく分からない。こんな感じ初めてだし」
言葉からは虚言による動揺は感じられず、
むしろよく分からない感覚に翻弄されつつある自分自身への戸惑いが感じられた。
「そう……じゃあ、教えてあげるわ。それは快楽と呼ばれる感覚よ」
咲夜が耳元でそう囁くと、橙の耳が軽く揺れる。
「快楽……?」
「別に考えなくてもいいのよ、これから言葉通り、その身体に教えてあげるから」
え〜と、口の中で呟き、橙を後ろから抱きすくめるようにして体を起こし、
抱きかかえたまま座る。
橙がすっぽり収まるのは、咲夜が大きいからではないだろう。
「ま、これだけ感じてれば、大抵の普通の事は大丈夫でしょ」
言うなり、左手をスカートの下から足の付け根へ、
右手は上の服の裾から滑り込ませ、わき腹へと伸ばす。
そして、焦らすように優しく撫でる。
「ん……なんか、くすぐったいような……変な感じ」
愛撫する場所を、より付け根の方へ、より上の方へと移動させる。
さらに、試しに首筋を舐めてみると、ひぁっ、と叫び、橙の体が撥ねた。
「はっ……や……はぁ……ふぁ……」
右手を中央まで持っていくと、そこは完全に濡れそぼっていた。
「ここまで濡らしてくれると、何だか感慨深いわね」
言いながら、左手は花芯、右手はさくらんぼと表されるそれをつまむ。
「ひっ……ひぁ……頭が……へン、にっ……」
「ヘンになってもいいのよ。そのまま、感じるままに……」
首筋を舐めるのを止め、耳元で囁く。
と、溢れる蜜の量が増えてくる。
「もしかして、言葉で感じるタイプ?」
が、今までの会話からして、羞恥心というものは無さそうだ。
「ふぁ……かん……じる?」
「そうね……気持ちいいって事」
「あぅ……なんか……耳に……息が掛かると……ふぁっ……ゾクゾクって……」
なるほど、と口を動かし、耳に息をそっと吹きかける。
「やっ……ふぁ……」
右手をひとしきり動かすと、花芯から離す。
「あっ……」
橙は、何で止めるのか、と言いたげな、切なそうな目をする。
「ちょっとくらい焦らした方がいいのよ。それよりほら」
橙の目の前にその左手を持ってきて、親指と人差し指の腹を擦り合わせ広げると、
先ほどのキスをした後のように指と指の間に糸が引いていた。
「これが、貴女が感じている証拠」
これが、と言って橙が左手で咲夜の左手を触る。
「なんか、ヌルヌルしてる……」
「こういう時は、イヤラシイ、って顔を赤らめて背けるものよ」
「そうなの?」
まあいいわ、と嘆息を漏らし、左右の手の位置を変え、続きを開始。
「やっ……何か……さっき……ふぁ……よりも」
「ふふっ、右手の方が、細かい作業には向いてるから」
右手の動きは細かく、スリットをなぞるような上下運動。
左手の動きは緩慢に、胸を撫でるような円運動。
「あ……ふぇ……あぅ……」
耳には不規則に息を吹き、その合間に首筋を攻める。
「や……な……何か……ふぇっ……くる……ふあぁ……」
「いいのよ、そのまま……感じるままに」
言うや、右手の動きを早く、より大きく、花芯まで触れるように動かす。
「あ……あっ……で、で……出るっ」
「え?」
何が、と訊く間もなく擦過音に似た音がして、橙の足を液体が伝う。
と同時に咲夜は右手に生暖かいものを感じる。
続いて水が地面を叩く音がする。そして、
「ふああぁぁぁぁ……」
ひときわ高い声を上げ、ぐったりとしてしまう。
「…………」
はっ、と橙が気付くと
「目が覚めた?」
咲夜の表情からは先ほどまでの余裕と艶は消え、
憂いを疑念が薄っすらと覆っている。
「……どうしたの?」
橙の疑問に、何でもないわ、と答え、
「お風呂、あるかしら?」
橙は肯き、こっち、と立ち上がろうとするも
「……あれ」
足腰に力が入らない。
「ま、あれだけやればね……」
◆
「で、何であなたも入ってるの」
目の前の橙に言う。
「そりゃ、服が濡れてて、気持ち悪かったからにゃ」
「そう。まあいいわ。じゃあついでだし、背中を流してくれる?」
「了解にゃ」
風呂はいわゆる銭湯だった。先に湯船から咲夜が出ると、
あとから橙が椅子と桶を持って駆けて来る。
「走ったら危ないわ」
「大丈夫……にゃ」
何事もなく咲夜の元に到着。
「ところで、さっきから気になってたんだけど」
何にゃ? と首を傾げる橙。
「その語尾、何?」
「だって、咲夜はこういうのが好きなんじゃないのかにゃ?」
「別に、好きなわけじゃないんだけど」
「むー。それなのにあんな事したの」
云われて、咲夜は赤面。
「気持ちよかったし、いいけど」
あ、と声を上げ、橙は1つの疑問を提示。
「もしかして、あれが極楽浄土?」
え? と驚きの声を漏らす。
「だって、凄く暖かくて幸せな気持ちになれた」
「それは……」
確かに、それを極楽浄土と呼んでも間違いではないだろうが、
やはり、そうだと肯定するのは躊躇われた。
「ああされると、咲夜も気持ちいいの?」
「え、いや、それは」
メイド長の威厳もなく動揺。
「えっと、確か……」
いきなり、足の付け根の付け根に手を伸ばし、触れると、
咲夜は小さな悲鳴を零した。
「あ、私と同じになってる」
既にそこは濡れていた。
おそらく、先ほど橙を愛撫をしていた時からだろう。
「や……やめ……いたっ」
見ると、血が少し滲んでいる。どうやら爪が引っ掛かったらしい。
「あ、えと、ごめんなさい」
「……大丈夫よ。それより、やけに素直で気持ち悪いんだけど」
「む、気持ち悪いって」
ヒドいなぁ、と思うが、
「咲夜は気持ちいい事をしてくれたから、いい人間。そういう事」
「単純でうらやましいわ。悩みとか少なそうね」
「悩み?」
「気にしなくていいわ」
疑問の表情から思案顔。何か納得したように肯く。
「んーと、じゃあちょっとこっち向いて」
何? と顔を向けるが
「身体全体、こっちに向けて」
はいはい、と素直に椅子ごと向きを変える。
と、腰の位置に橙の顔。
「爪がまずいなら、舌で、ね」
「ちょ」
言いかけるも、ひゃっ、という自分の声に押し留められる。
「うー、ちょっと苦いかも……」
「ほら、なら止め」
「咲夜を気持ちよく出来るなら、我慢できるから」
にぱっと笑顔を浮かべる。
その邪念のない笑顔は、咲夜の動きを止めるに充分であった。
その隙に橙は顔をうずめ、風呂場にミルクを舐めるような音が響く。
「ふあ……ひっ……ひぁ……やあ……」
橙の舌は人よりもざらついており、普段の何倍もの刺激が襲ってくる。
「あ、やめっ……らめ……つよ、強すぎっ」
れも、と口を離す。
「咲夜のここ、あとからあとから、ヌルヌルのを出してるよ?」
「橙……」
何? と訊く橙の声は、どことなく嬉しそうだ。
何故嬉しそうな顔をするのか、と疑問符が一瞬浮かぶも、
身体の疼きは疑問の継続を許さない。
「……お願い、続けて」
おう、と返事を返すと、一心に舐める事に専念。
「あっ……やっ……いっ……」
言葉にならない声が響く。
その声が、自分の出した声であると認識し、非常に恥ずかしく感じるものの、
既に声を抑えられるような余裕は咲夜にはない。
ここでは、自分の出すくぐもった声と、橙が舐める事による音、
それだけが響いている。
その認識は、咲夜の羞恥心と相俟って、身体の火照りを倍化させた。
しかも、火照りを加速させるのは、いくら妖怪とは言え、
年端も行かぬ子供同然の橙である。
これらの非日常性は、咲夜の快楽を後押しする。
「や……いっ……ふぁ……ふぇっ……ら、らめ……」
限界を示すように、咲夜の身体が震え、
「あ……うくっ……ひぁっ……ああああぁぁぁぁ」
気をやってしまう。
そしてそのまま、後ろへ傾いてゆき、
「咲夜っ!?」
床に後頭部から激突。
◆
「っつー……」
「気が付いた!?」
やたー、と大喜びの橙。対する咲夜は惚けたように周りを見回す。
ふと着ているものを見ると、何故かいつものメイド服ではなく、
美鈴の着ているものに似ている。
「ああ、それは私が着せたの。ちょっと小さいかもしれないけど、
それでも一番大きいやつだから我慢して」
「…………」
「あれ、咲夜……どうしたの?」
はっ、とたった今目が覚めたように表情が変わる。
「ここは何処? どれくらい寝てたの?
それより、なんで、さっき落ちたはずのあんたが?」
続けざまに質問。
「ここはマヨヒガの私の家。寝てたのは10分くらい。
最後のは……イヤラシイ」
橙は顔を赤らめ、咲夜から背ける。
「……何だかよく分からないけど、世話になったみたいね」
「分からないって……お風呂の事とか覚えてないの?」
「お風呂?」
と、疑問符の咲夜。
「ま、いいわ。身体の調子は悪くないみたいだし」
まるで、早業のように一瞬で服が普段のメイド服に戻る。
「そう言えば、ここの品物を持ち帰ると幸運になれるんだっけ?」
「なれるわよ」
それじゃあ、と周りを見回し、邪魔にならなさそうな物を物色。
「……本当に、覚えてないの?」
感情を押し殺した声で橙が呟く。
「何を?」
「……そう、ならいい」
はい、と自分の被っていたモブキャップを渡す。
が、当然咲夜は疑念の表情。
「お願い、持って行って」
その声からは、悪意は感じられず、
ただ懸命さが伝わってきた。だから、
「分かった、そう言うならそれを持っていくわ」
それを聞いて、橙の表情に幾分かの明るさが加わる。
「絶対なくしたらダメだからね」
絶対だからね、と念を押す。
普段なら、こんな我が侭は自分の主から以外では許さないのだが、
何故かこの妖怪の言う事は素直に聞こうと思えた。
「さて、じゃあ、あんまり遅れるわけにもいかなし、もう行くわね」
帽子を被っていない橙の頭を撫でると、
文字通り、あっという間に飛んで行ってしまった
「…………」
無言で見送る橙の目から涙が零れでる。
が、そのなき声を聞くものはもういない。
◆
そして、春が戻ってきた後、紅魔館に猫の妖怪がやってきて、
咲夜、レミリア、そして何故か美鈴を巻き込んでの、
一大事件になったとの噂が風に舞った。
しかし、神ならぬこの身ゆえ、この噂の真偽は定かではない。
真実は同じく風の中にしか無いのかもしれない。
何はともあれ、今日も幻想郷は平和だ。
(了)
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あとがき