憂鬱の輪舞曲(ロンド)

 最近館長の様子がどうもおかしいんです。どうおかしいかと聞かれると困ってしまうん
ですけど。読む本の量が減って、その代わり考え事をする時間が増えたり。図書館の本棚
を倒してしまったり、お嬢さまとわたしを間違えたり。そうそう、そのお嬢さまとわたし
を間違えた時の館長の慌てた姿は可愛かったですねぇ……。多分、この耳の所をお嬢さま
の羽と間違えたんでしょうね。
 それから、時々惚けた顔をしたり。あ、その時の顔が本当に幸せそうで、見てるこっち
まで幸せになっちゃいそうなんですよ。それにほら、館長の肌ってスゴく綺麗で白いじゃ
ないですか。そこにポーって紅みがさしてて、思わず抱きしめたくなっちゃいますよ!
 ……オホン、話がそれました。ともかく、そういうワケで、館長の様子がいつもと違う
んですよ。
 様子が変わったのは、あの魔理沙とかいう変な魔法使いが来てからだったと思います。
いえ、絶対そうです。いつも人の名前を覚えない館長が、あの魔法使いの名前を叫んでい
たのを聞きましたし。あの魔法使い、きっと館長に何かしたんですよ。きっとそう、そう
に違いないです。あの魔女、私のお姉さまになんてことを……!

「いつから、あなたはパチュリーの妹になったのよ」
「はっ……メ、メイド長、いつの間に」
「私はあなたに相談にのって欲しい、と言われたからここにいるのだと思ったけど?」
「そ、そうでした。ともかく、そういうワケなので、あの白黒が館に出入りするのを禁止
 してください」
「そうは言われてもね……私も何度か追い返してるんだけど、相変らず来るのよね。第一
 あなたの所で諦めさせれば全く問題ないんじゃないの?」
「それは……そうなんですけど」
「まあいいわ。ところで1つ気になったのだけれど」
「はい?」
「パチュリーが惚けてる事があるって言ってたけど」
「そうなんですよ。本当にあの時の館長は可愛らしくて……見てるこっちまで惚けちゃい
 そうですよ」
「……私には普段と変わらないように見えるんだけど」
「全然違うじゃないですか」
「普段からボーっとしてるし、顔も赤いじゃない」
「ボーっとじゃなくて、ポーっとです。それに、普段の調子の悪さからくる赤みと一緒に
 しないでください、もう」
「……よく判るわね」
「メイド長だって、お嬢さまのご様子はよく判ってらっしゃるようですけど?」
「メイドの長としては地獄猛然の事でしょう?」
「メイド長、焦り過ぎです。……知らぬは本人ばかりなり、ですか」
「…………」
「…………」
「……至極当然の事から変な事を邪推しないで欲しいわね」
「……判りました」

 触らぬ神に祟りなし、触らぬメイドに憂いなし、ってね。まあ、確かにお嬢さまもお美
しいのよね。新月の頃の幼い感じのお嬢さまもいいんだけど、やっぱりお嬢さまはお嬢さ
ま然とした満月の頃のお嬢さまが一番ね。
 ……あれ? 昔はずっとお嬢さまのままだったと思ったんだけど……なんで、月の満ち
欠けに合わせて変わるようになっちゃったんだろう。そういえば、変化するようになった
のはメイド長が変わってからのような……。あのメイド長がお嬢さまに変な事するとは思
えないし、お嬢さま自身に何かあったのかな。
 あ、そうか、やっぱりメイド長が変わったのが関わってるんだ。そうすると――

「知り得ぬ事には沈黙せねばならない、ってね」

――耳元で声が響き、ナイフが舞っていた。まさに地獄猛然。
                              (了)


あとがき
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