七夕前に

 天気は快晴、真っ青な空に白い雲がまぶしく輝いている。
「……暑いわ」
 セミの声が響く神社の境内に佇む少女が呟く。
「こんな事なら、少しは霧を残しておいた方が良かったかしら」
 少女が身に付けているのは紅と白の着物。
いわゆる巫女装束……とは少し違うが、そういったものであろう。
短いが、緑の黒髪に大きな紅いリボンが映えている。
「何を今更な事を言ってるのかしら?」
「また来たの……って、あれ?」
「何よ、その「猫がわんと鳴いた」のを聞いたような顔は」
「トリウム崩壊系列よりは少ないんじゃない、あんたがここに来た回数」
 境内に現れたのは、白と紺の洋服を身につけた少女。
頭には、カチューシャを付けており、いわゆるメイドの格好である。
銀髪を前面左右でお下げにしており、胸元のリボンと同じ緑色のリボンで留めている。
「今日は、お嬢様の事で来たの」
「ていうか、それ以外で来た事ないでしょ」
「実は――」

                    ◆

「なるほど、そういう事か……」
 炊事場でひとりごちている少女。
三角巾に割烹着と、まるで配膳係のような格好。
短いウェーブがかった金髪を、一房だけ編んで白いリボンで留めているのはチャームポイントだろうか。
「ちょっと煮込みすぎたかな」
 火にかけられた鍋からは、なぜか桃色の湯気が上がっている。
「まあ、ちょっとこいつの調合量を減らせばひどい反応も起こらないだろ」
 料理と魔法薬の調合は似たようなものなのである。
「さてと、あとはこいつが過剰反応しなければ成功か」
 反応速度を落とすため、火を落とし、材料を軽量カップから入れようとしたその時、
「魔理沙! 霧雨魔理沙!」
「えっ? あっ」
 「え」の音で軽量カップは支えを失い、「あ」の音では既に加速を始めていた。そして、
「げ」
 鍋は爆発した。

                    ◆

 何かが崩れるような轟音が遠くから響く。
「ん……雷?」
「ちょっと長居しすぎたかしら、お茶、ごちそうさま」
「茶葉の礼くらいはするわよ」
 真新しい紅茶の缶を指ではじく。
「それじゃ、七夕の件もよろしく」
「仕方ないわね。あくまで、私の家を守る為よ」
「何でもいいわ」
「まったく、何だってあんな子ど――」
「何か?」
「だから、時間止めて後ろに回りこむのはやめて」
「大丈夫よ、貴女はお嬢様の「お気に入り」なんだから」
「……そろそろ本当に帰ったら? 夕立が来そうよ」
「そうね、降り出すと厄介だし」
「言っておいて何だけど、時間止めればいいんじゃないの?」
「貴女は霧の中を全く濡れずに歩けるの?」
「……なるほど」

                    ◆

「分かってもらえたかしら」
 渇いた咳をしながら、眠そうな目をした少女が問う。
紫色の長い髪を二房に分け、幾つかのリボンでまとめている。
服装はまるで寝巻きのようである。
「つまり、妹君が七夕をやりたいと言い出したから、私にも手伝えと」
 先ほどの割烹着の少女。今は割烹着の代わりにエプロンのようなものをつけている。
「そうよ、ちゃんと花火まで付き合ってもらうわ」
「何で私がそこまでしなきゃいけないんだ」
「元々貴女のせいでしょ」
「この瓦礫もか?」
「そうよ。因果応報というやつね。お嬢様に七夕の話なんてするから。しかも花火の事まで」
「花火はそんなにまずかったのか」
「あの館、お嬢様と妹様の花火で一度焼け落ちかけた事があるわ」
「メイド長が何か見たのか」
 何を言っているか分からないと言う様に小首を傾げ、紫色の長い髪を揺らす。
「炎上と言えば、館・メイドだぜ」
「それじゃあ、明日はよろしく」
「あれの修復を手伝うならな」
 先ほど魔理沙と呼ばれていた少女は上を指差す。
そこには、ガラスの嵌っていない丸い天窓が空いている。
「本当に綺麗に開いたものね」
「緊急回避が出来ないのは命に関わるしな」
「ところで、何の薬作ってたの?」
「しばらく巨人」
                              (続)
あとがき
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