七夕さらさら

 宵闇も過ぎ、星がほのかに輝きだす。
昼間にさんざん己を主張した太陽も今は残り香を感じさせるのみである。
博麗神社の境内に二人の魔女が空を見上げて佇んでいる。
魔「なあ、パチュリー」
パ「なに」
魔「雨が降ったらどうするつもりだったんだ」
パ「…………」
魔「紅魔館炎上再びか……」
パ「貴女達もいたはずだし、なんとかなったでしょ」
魔「笹に吊るされても困るぜ」
レ「そんな事しないわよ」
 フランドール現る。
白地に紅い金魚の柄が可愛らしい。
いつものしたり顔も、今日はどことはなしに緩んだ雰囲気だ。
魔「楽しそうだな、妹君」
フ「私はいつでも楽しいわ」
魔「自分で言うかね」
パ「お嬢様は?」
フ「お姉様は、着付けに時間がかかりそうだから先に来ちゃった」
魔「妹君は、自分で着付けが出来るのか」
フ「できるワケないじゃない。魔法少女のたしなみよ」
魔「手間が省けたと喜ぶか、着せ替えの楽しみがなくなったと哀しむか」
パ「メイド長なら後者ね。妹様の場合背中の羽があるから、普通の服は着られないけど」
霊「そんな事より、こっちを手伝ったらどうなの」
 霊夢の声がかかる。
見ると、いつもの紅白姿で割と大きな笹を引きずっている。
魔「ご苦労さんだぜ」
霊「い・い・か・ら、手伝いなさい」

                    ◆

パ「……っと、これでいい?」
魔「上出来だな」
レ「あら、もう飾りつけも終わっちゃったのかしら」
霊「作る所からならまだできるわよ」
 いつものメイド服の咲夜を供に、レミリア到着。
妹と同じく白地に紅い柄の映える浴衣を着ている。
が、その紅というのは
霊「ねえ、咲夜、トマト柄の浴衣なんてどこにあったの」
咲「本当はお2人には鯉と金魚の柄のを着てもらおうと思ってたんだけどね。
  お嬢様がどうしてもって言うから」
レ「だって、良いじゃない、トマト。こんなにも紅いし」
魔「キャベツ柄よりはいいんじゃないか」
咲「そういう貴女達こそ、それは何よ」
魔「ん、普通だろ」
 魔理沙の浴衣は白地に紺色笹柄の二色染め。
パチュリーの浴衣は紺地に白色笹柄の二色染め。それはまるで――
咲「ペアルックじゃない、それ。しかも随分渋いわね」
魔「笹柄ってのは、今日にもってこいだしな」
レ「そうだ、霊夢は浴衣は着ないの」
霊「着替える暇なかったし、私はこのままでいいわ」
レ「そう、残念。せっかくペアルックできると思ったのに」
パ「…………」
霊「何であんたとペアルックにならなきゃいけないのよ」
レ「だって、ペアルックって好き合う者同士がするもんじゃないの?」
魔「別にそうとも限らないぜ。あんたら姉妹もペアルックだし。
  なあ、パチュ……あれ、パチュリーは何処行った」
咲「凄い勢いであっちに翔けて行ったわよ」
魔「なんでだ」
咲「さてね」
 肩をすくめる咲夜。疾走するパチュリーの顔はトマトのように真っ赤だったとか。
フ「(お姉様とペアルック♪)」

                    ◆

霊「それじゃ、短冊は行き渡ったかしら」
魔「まるで学校の先生だな」
パ「先生が一番年下だわ」
霊「あんたたちの先生なんてゴメンだわ」
レ「先生と生徒って云うのも……」
魔「メイド長、あんたは自分の所のお嬢様に何を教えてるんだ」
咲「わ、『私のお嬢様に』なんてそんな」
パ「もう少し落ち着いて」

フ「お姉様は、何て書くの?」
レ「『霊夢が観念しますように』」
霊「何さらりと怖い事書いてるのよ」
レ「あら、私の正直なお願いよ。それとも、書くまでもなかったかしら」

魔「メイド長はやっぱり『お嬢様とラブいちゃ出来ますように』か?」
咲「!?」
魔「……そうか」
咲「そ、そういうあんたこそ何て書いたのよ」
魔「無病息災」

パ「(何て書こうかしら……えーと……ま、魔理沙と……)」
フ「ん、パチュリーは何て書いたの?」
パ「!?」
フ「隠す事ないじゃない」
パ「……妹様は?」
フ「私? 『ケーキが毎日食べたい』『メイド長は鼻血を何とかして』
  『お姉様ともっと遊びたい』『2番と5番は甘党』――」
パ「随分書きましたね」
フ「まだまだあるわよ」

                    ◆

霊「これで全部かしら」
パ「あなたので最後」
レ「ちゃんと叶うかしら」
咲「お嬢様なら大丈夫ですよ」
魔「心がけ次第だな」
霊「できれば、叶って欲しくないんだけど」
フ「えり好みはよくないわ」
 と、何かが地面を叩く音がする。
レ「あら」
 瞬間、スカーレット姉妹が消え、音の原因は雨と判る。
咲「備えておいて正解だったわ」
魔「こりゃ、花火も中止だな」
 全員屋根の下に入る。なまじ豪雨でないだけに、夕立ほど早く上がりそうもなかった。
レ「これじゃ、帰れないわ」
フ「私は最初から帰る気はなかったわ」
霊「帰れ」
咲「だから無理だって」

                    ◆

咲「じゃ、ちょっと一部屋借りるわよ」
霊「はいはい。まったく、高い紅茶になったわ」
 しばらくすると、部屋から咲夜が出てくる。
咲「流石に疲れたわ」
霊「結構かかったわね」
咲「色々と用意もあったけど、流石に時間を止める余裕はなかったからね」
霊「って、こんなに広くして何する気よ」
 障子の向こうには、40畳はあろうかという空間が広がっていた。
しかも、周囲にうずたかく詰まれている枕。
魔「お泊り会といったら、枕投げ大会だぜ」
パ「ついでに、枕に誘眠の魔法かけといたから、
  当たった時点で明日まで気持ちよく寝られるわ」
レ「つまり、私が最後まで残れば、霊夢に……」
霊「何不穏な事を言ってるの」
咲「(はっ、という事は、勝ち残ればお嬢様と……)」
魔「顔に出てるぞメイド長」
パ「(……最後まで起きていられれば魔理沙で……)」
フ「なんでもいいわ、いくわよ!」
 世界で最も激しい枕投げ大会が始まる。

 雨の振る中、装飾された笹から一枚の短冊がはらりと落ちる。
『何事もないのが一番 博麗霊夢』
 雨では叶う願いも叶わない。
                              (了)


あとがき
戻る