円舞曲(ワルツ)──夜想曲(ノクターン)

「また来たの」
「また来たぜ」

 目の前に黒いのがいる。人間のなのに魔法が使えるらしく、
ついこの間、本をさっくり持っていかれてしまった。
結局其の後、持ってった本で動きを鈍らせちゃって、
メイド長に追い返されたみたいだけど。

 そして今日、再び彼女がやってきた。
この前よりも傷は少ないような気がする、暗くてよく判らないけど。
門番はちゃんと仕事をしているのかしら。
それともこの前よりも強くなったのかしら。

 どうも彼女の場合、本を読むだけではなく修行と称して
成功するかどうかわからないような魔法も使ってみるらしい。
そんな事をすれば、どうなるか分かっているのかしら。
運が良ければちゃんと効果を現すけど、下手をすれば死んでしまう事もあるのに。
勿論、お嬢様に迷惑を掛けるワケにもいかないし、私はやった事などない。

 ……書斎を出るという事はどういう事なのだろう。
失敗するかもしれない魔法を使うとどんな感じがするんだろう。
いままでに私が読んだ本には載っていなかった。
でも、目の前の黒いのは知っている。
同じ魔女なのに。彼女は人間なのに。人間だから。

 そんな事を取留めもなく考えていたのが、ここ一週間。
本を読んでいるのか、外の事を考えているのか、
それとも彼女の事を考えているのか……。

 何で、こんな事になってしまったのだろう。
彼女が私の知らない事を知っているからか……

 でも……他者は他者、気にするような事じゃない。
それは分かっている。それなのに気にしてしまうのは何故なのかしら。
これが好奇心という感覚? でも、こんな感覚は初めてのものだ。
なら、書斎の外というのは其れ程に惹き付ける魅力があるのかしら。
それともそれだけの魅力を持っているのは……

 そう考えると何かが熱を持って来たような気がする。

「――ふふっ」
「いきなりなんだ?」
「あなたが気にする事じゃないわ」
「気になるぜ」
「そんな事を気にしてると、今度はメイド長の所にも行けないわよ」
「困るぜ」

だけど、其の顔は全然困った様子はない。だから私は――

「それなら、ちゃんと集中する事ね、霧雨魔理沙!」

――ダンスを愉しもうと思った。
                              (了)


あとがき
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